実は、唾液だけで口腔がんのDNA変異を検出できる時代が始まっています。

液体生検(リキッドバイオプシー)とは、血液・唾液・尿などの「体液」を検体として用い、主にがん診断に活用する技術の総称です。 従来の組織生検のように患部を切り取る必要がなく、低侵襲・低コストで繰り返し測定できることが最大の特徴です。
関連)https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/liquidbiopsy/
歯科領域においては、口腔がんの早期発見手段として特に注目されています。 日本では年間約8,000人が口腔がんに罹患しており、発見が第I期の段階であれば5年生存率は約90%に達しますが、第IV期では30%台まで低下します。つまり、早期発見こそが予後を左右する最大のファクターです。液体生検はその早期発見ツールとして、歯科診療の最前線に立ちつつあります。
一般歯科医院でも実施できる液状化検体細胞診(LBC: Liquid-Based Cytology)は、液体生検の一種であり、開業歯科医や研修医でも簡便・安価に行えると報告されています。 患者への負担が少ないため、長期的なモニタリングにも適しています。 これは使えそうです。
関連)https://www.bdj.co.jp/cytology/products/hkdqj200000vxts0-att/hkdqj200000vxu8d.pdf
従来の組織生検は、局所麻酔下で患部を外科的に切除・採取する必要があり、出血・疼痛・治癒不全などのリスクが伴います。 特に舌や口底など機能的に重要な部位では、患者の心理的負担も大きくなります。
関連)https://searchkuru.krcc.kagoshima-u.ac.jp/patentK/2018-203289.html
液体生検は、この「切る」という行為が不要です。血液や唾液を採取するだけで、腫瘍由来のDNA(ctDNA)や細胞外小胞を分析できます。 つまり、外科処置なしに診断情報が得られます。
関連)https://www.aandt.co.jp/jpn/medical/tree/vol_19_1/
歯科外来でLBCを用いた口腔細胞診を行う場合も、ブラシや綿棒で粘膜表面を擦るだけで完了します。 生検に伴う縫合・術後管理も不要であることから、通院コストの削減にもつながります。患者へのメリットが明確ですね。
関連)https://www.sasaki-kk.co.jp/line/books/202101c01/
| 検査方法 | 侵襲性 | 繰り返し可能か | 歯科外来での実施 |
|---|---|---|---|
| 組織生検 | 高い(外科切除) | 困難 | 困難(外科的環境が必要) |
| 液体生検(ctDNA) | 低い(採血) | 可能 | 採血後、外部検査機関へ |
| LBC(液状化細胞診) | 低い(ブラシ擦過) | 可能 | ✅ 保険算定可能 |
口腔がんにおいても、原発巣切除後にctDNAを用いてリンパ節への潜在的転移を先行検出する研究が国内で進められています。 原発巣切除のみを一期的に行い、術後のctDNA検出時のみ予防的頸部郭清を行うという個別化医療への道が見え始めています。
関連)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K09710/
口腔外科術後のモニタリングでは、従来は定期的なCT・MRI検査が中心でした。液体生検によるctDNA測定を組み合わせることで、画像コストを抑えながら再発リスクをより早期かつ精緻に評価できる可能性があります。早期介入が治療成績を左右することを考えると、この意義は計り知れません。
口腔がんは一見同じ腫瘍に見えても、部位によって遺伝子変異のプロファイルが異なることがあります。組織生検でサンプリングバイアスが生じると、実際に治療標的となる遺伝子異常を見逃す可能性があります。液体生検はこのリスクを軽減します。
結論は「腫瘍全体の地図を描ける」ことです。特に標的治療薬の選択においては、真の変異プロファイルを反映したctDNA解析が、より適切な薬剤選択につながることが期待されています。 現時点ではすべてのがん種で前向き証拠が揃っているわけではありませんが、技術的進歩は急速に進んでいます。
関連)https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/info/professional_semminer/2019/0308_09/Lecture_10.pdf
一般的に液体生検といえば血液(採血)を用いるイメージがありますが、歯科領域では唾液(saliva)が特別な意味を持ちます。 口腔は唾液と直接接触しているため、口腔内の腫瘍から放出されるDNA・microRNA・細胞外小胞が唾液中に高濃度で検出されやすいのです。
唾液を用いた液体生検(唾液診断)は、患者が自己採取できる可能性を秘めています。 採血が不要であるため、患者の恐怖感や侵襲をさらに下げられます。歯科医院というセッティングは、唾液採取に最も適した医療環境の一つです。
さらに、唾液中のmicroRNA(miRNA)パターンを解析することで口腔がんを判定するシステムの特許研究も報告されています。 miRNAはがん特異的な発現パターンを示すことから、バイオマーカーとしての精度向上が期待されています。
関連)https://searchkuru.krcc.kagoshima-u.ac.jp/patentK/2018-203289.html
口腔がんバイオマーカー研究の最新動向については、以下の資料が参考になります。
早期発見に向けた液体生検・唾液診断の研究動向を詳述した専門文献。
🔬 国立がん研究センター(国がん)による、ctDNA解析の利点と臨床的有用性の最新解説。
リキッドバイオプシー活用でがんの克服目指す(国立がん研究センター)
💊 口腔がん診断におけるLBC(液状化検体細胞診)の実践的な解説と保険算定の情報。
口腔がん早期発見のための 口腔細胞診入門(ささき社)
日本外科学会雑誌に掲載されたLiquid biopsyの現況と展望:Molecular leading timeを含む詳細なエビデンスのレビュー。