P.g菌は単独では歯周病を引き起こせず、仲間の菌がいて初めて牙を剥きます。
口腔内には700種以上の細菌が常在していますが、そのなかで歯周病の発症・進行に深く関与するとされる菌種は限られています。 現在、歯周病原性細菌の代表として広く認知されているのが、「レッドコンプレックス」と呼ばれる3菌種です。
具体的には以下の3種が含まれます。
関連)https://www.tsukamoto-dent.com/blog/851/
これが基本です。
この3菌種が揃って初めて、歯周炎が急速進行しやすい状態となります。 裏を返せば、1種類だけが存在する状態では重篤化しにくいというのが重要な臨床的示唆です。
レッドコンプレックスという名称はSocransky(ソクランスキー)らが1998年に発表した分類に由来し、細菌複合体(コンプレックス)ごとに病原性の強さを色で示した「Socranskyのピラミッド」として知られています。 頂点に位置するレッドコンプレックスは、病原性ピラミッドの最上位です。
関連)https://tsuboidental.com/blogs/archives/7425
意外ですね。
各菌種の病原メカニズムを知ることが、治療戦略の立案に直結します。
P.g菌の特徴
P.g菌が最も強力な歯周病原性細菌とされる理由の一つは、「線毛(fimbriae)」の存在です。 この線毛により、歯肉上皮細胞や歯周組織への付着・侵入が促進されます。
関連)https://www.tsukamoto-dent.com/blog/851/
さらに重要なのが補体システムの回避能力です。 P.g菌は宿主の自然免疫を「乗っ取る」形で白血球の機能を障害し、他の菌が増殖しやすい環境をつくります。つまり、P.g菌は「単独の破壊者」ではなく「他菌の増殖を助ける支援役」という二重の役割を持っているということです。
関連)https://first.lifesciencedb.jp/archives/8976
これだけは覚えておけばOKです。
T.f菌の特徴
T.f菌はP.g菌との共生関係が強く、単独では増殖が難しいという特性を持ちます。 宿主組織から栄養を得るための酵素産生能が高く、歯周組織の結合組織破壊に深く関与します。
T.d菌の特徴
スピロヘータであるT.d菌は運動性が高く、深い歯周ポケット内でも活発に移動します。 組織浸潤性が高いため、歯周ポケット深度が深いほど検出率が上がる傾向にあります。歯周ポケット4mm以上の部位で特に注意が必要です。
レッドコンプレックスが注目されがちですが、歯周病原性細菌はそれだけではありません。
関連)https://www.period.tokyo/column/4125/
「オレンジコンプレックス」と呼ばれる中程度の病原性グループも臨床上重要です。 含まれる菌種は以下の通りです。
関連)https://yokohama-shika.com/2019/07/18/462/
| 菌名 | 略称 | 特徴 |
|---|---|---|
| Prevotella intermedia | P.i菌 | ホルモン変動に反応して増加。妊娠性歯肉炎と関連 |
| Fusobacterium nucleatum | F.n菌 | 「橋渡し菌」として他の菌の付着を仲介する |
| Campylobacter rectus | C.r菌 | グラム陰性嫌気性桿菌。組織浸潤性が高い |
| Eubacterium nodatum | E.n菌 | 偏性嫌気性。T.d菌との共存が多い |
さらに、「A.a菌(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)」は若年性歯周炎(侵襲性歯周炎)との関連が深い菌種として独立した位置付けがされています。 通性嫌気性という特性から、酸素がある環境でも生存でき、歯肉溝より浅い部位でも検出されることがあります。
これは例外です。
A.a菌は白血球毒素(ロイコトキシン)を産生し、宿主の防御細胞を直接破壊します。 10代~20代の若年者での重篤な骨吸収例にはA.a菌の関与を必ず疑う必要があります。
また、F.n菌(フソバクテリウム・ヌクレアタム)はオレンジコンプレックスに属しながら、「プラーク形成の橋渡し役」として最初期の菌付着を促す点で独特の存在です。 F.n菌がいなければ、レッドコンプレックスが歯周ポケットに定着しにくいという研究知見もあり、治療の標的として注目されています。
歯周病原性細菌の影響は口腔内にとどまりません。これが歯科医従事者として特に押さえておくべき点です。
重症の歯周病患者(60歳未満)では、そうでない人と比べて心血管死リスクが2.48倍に上昇するというアメリカでの大規模データがあります。 痛いデータですね。
関連)https://www.jhf.or.jp/topics/2014/003493/
関連が示されている全身疾患は以下の通りです。
関連)https://www.ms-ins.com/welfare/document/list/pdf/2013/3_1_11.pdf
こうした全身リスクを患者に説明する際、具体的な数字(心血管死2.48倍など)を提示することで、口腔衛生指導の説得力が大きく変わります。 結論は、歯周病治療は全身医療の一部だということです。
関連)https://www.jhf.or.jp/topics/2014/003493/
歯周病原性細菌と全身疾患の関連については、日本心臓財団が公開する解説が詳しく、患者説明用の資料作成にも参考になります。
日本心臓財団「だから怖い! 歯と心臓の意外な関係」(心血管死リスク2.48倍の根拠データ掲載)
歯周病原性細菌を「種類ごとの個別の敵」として捉えるだけでは、臨床対応に限界があります。
歯周病菌はバイオフィルムという「ぬめり状の集合体」を形成し、その中で互いに連絡を取り合いながら活動します。 このバイオフィルム内での菌の相互コミュニケーションは「クオラムセンシング」と呼ばれ、宿主の免疫が弱まったタイミングを菌全体で感知して一斉に毒素産生を増やす仕組みです。これは使える知識です。
クオラムセンシングの観点から見ると、以下の点が臨床に直結します。
抗菌薬の限界が1,000倍以上というのは意外ですね。
また、F.n菌が「橋渡し菌」として初期プラークと後期の病原菌群をつなぐ役割を担うことは前述しましたが、これはすなわち「初期の歯垢形成段階での介入こそが最も効果的」という予防歯科の根拠にもなります。 一日一回の丁寧なブラッシングで歯肉縁下プラークの成熟を阻害することが、レッドコンプレックスの定着防止につながる、ということですね。
バイオフィルムと歯周病菌の関係について学術的に深く把握したい場合は、ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)の一次文献解説が参考になります。
ライフサイエンス統合データベースセンター「P.gingivalisは補体とToll様受容体経路を操作する」(P.g菌の免疫回避メカニズムの学術解説)
また、歯周病菌と全身疾患に関する研究報告をまとめた学術資料として以下も有用です。
三井住友海上福祉財団「歯周病菌と全身疾患」(心筋梗塞・腎不全・脳梗塞とのデータ付き解説PDF)