ASA PS3の患者でも、条件次第では日帰り全身麻酔を安全に実施できるケースがあります。
関連)https://www.oralstudio.net/dictionary/detail/134
日帰り全身麻酔(外来全身麻酔)とは、入院を伴わずにその日のうちに帰宅できる形式で行う全身麻酔のことです。 従来、全身麻酔は入院を前提とするものとされてきましたが、麻酔薬や覚醒技術の進歩により、適切な患者を選択すれば外来でも安全に実施できるようになりました。
関連)https://1dc.jp/anesthesia-day-surgery-safety/
歯科領域での日帰り全身麻酔は、育児や介護などの社会的理由で入院が難しい患者、歯科恐怖症や嘔吐反射が強い患者、多数歯の処置を短期間でまとめて行いたい患者に特に有効な選択肢です。 つまり「入院が必要ない患者向けの全身麻酔」が基本です。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411201760
治療時間は概ね2時間以内が目安とされており、これを超える侵襲の大きな処置は入院全身麻酔を検討する必要があります。 治療後は院内の回復室でバイタルが安定するまで休息し、帰宅できる状態を確認してから帰宅となります。
関連)https://www.nashikai.or.jp/cms/wp-content/themes/tmpl/img/upload/shika-chiryou5.pdf
日帰り全身麻酔を安全に行うためには、以下の適応条件をすべて満たすことが前提となります。
関連)https://www.nashikai.or.jp/cms/wp-content/themes/tmpl/img/upload/shika-chiryou5.pdf
これが基本の条件です。 加えて、局所麻酔薬にアレルギーがある患者も日帰り全身麻酔の適応となります。
関連)https://www.nashikai.or.jp/cms/wp-content/themes/tmpl/img/upload/shika-chiryou5.pdf
歯科恐怖症で治療ができない患者や、重度の異常絞扼反射(嘔吐反射)を持つ患者、知的障害・自閉スペクトラム症などで行動調整が困難な患者も、適応の対象として挙げられます。 これらの患者はそれぞれ異なる背景を持つため、個別に全身状態の評価を行うことが欠かせません。
関連)https://www.dental-masui.com/anesthesia/
また、多数歯の処置をまとめて行いたい場合や、治療時間が長くなると予測される場合も適応に含まれますが、その際には治療時間の見積もりを厳密に行うことが重要です。
関連)https://www.nashikai.or.jp/cms/wp-content/themes/tmpl/img/upload/shika-chiryou5.pdf
参考:日本歯科麻酔学会の認定医研修カリキュラムでは「日帰り全身麻酔の適応と禁忌について理解し説明できること」が求められています。
禁忌の判断には「ASA身体状態分類(ASA-PS分類)」が基本ツールとして使われます。 歯科麻酔の領域では、ASA PS4(生命を脅かすほどの全身疾患がある患者)やPS5(24時間以内に死亡が予測される瀕死の患者)は原則として手術適応外とされています。
関連)https://www.oralstudio.net/dictionary/detail/134
| ASA分類 | 状態 | 日帰り全身麻酔 |
|---|---|---|
| PS1 | 全身状態が良好 | ✅ 適応 |
| PS2 | 軽度の全身疾患あり | ✅ 適応 |
| PS3 | 中等度〜高度の全身疾患、日常生活制限あり | ⚠️ 慎重に判断 |
| PS4 | 生命を脅かす全身疾患 | ❌ 原則禁忌 |
| PS5 | 24時間以内に死亡が予測される瀕死状態 | ❌ 禁忌 |
PS3は一律に禁忌ではなく、個別に評価する必要があります。 喘息を基礎疾患に持つ患者の場合、全身麻酔により術後に喘息発作を起こすリスクがあるため、管理計画の立案が特に重要です。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411201760
見落としがちな禁忌として、気道確保困難(開口障害、巨舌、小顎症など)、肥満(BMI35以上)、睡眠時無呼吸症候群の未管理例なども挙げられます。 これらは術後覚醒遅延や上気道閉塞のリスクを高めるため、事前の評価が必須です。
関連)https://knowledge.nurse-senka.jp/500075
参考:ASA分類の詳細と歯科麻酔への応用については以下が参考になります。
術前評価は治療日の1〜2週間前に実施するのが原則です。 このタイミングで確認すべき項目は多岐にわたります。
関連)https://www.jda.or.jp/park/trouble/index23_02.html
内服薬の確認は特に重要です。 抗凝固薬(ワルファリン、DOACなど)を服用している患者では、術前の休薬判断を主治医と連携して行う必要があり、独断での継続・中止は重大なリスクにつながります。
小児患者の場合はASA分類が術後集中治療の必要性と強く関連することが報告されており、PS1の症例では術後集中治療を要するケースはゼロであった一方、PS2・PS3症例では集中治療が必要となる例が確認されています。 これは小児の術前評価が成人以上に慎重であるべきことを示しています。
参考:周術期管理の詳細は以下の日本麻酔科学会プロトコルを参照ください。
当日の絶飲食指導は麻酔の安全に直結するため、患者・保護者への事前説明が特に重要です。 誤嚥は鎮静または麻酔を受けた全患者で重大なリスクとなります。
関連)http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/20150526guideline.pdf
東京都立心身障害者口腔保健センターの基準では、予約時間に応じた食事・水分の制限が細かく定められており、基本的に手術2時間前まで水分摂取は可能ですが、固形物については予約時間によって異なります。 一般的な指針は以下の通りです。
関連)http://www.tokyo-ohc.org/message/pdf/leaflet/005_systemguide03.pdf
| 制限内容 | 目安 |
|---|---|
| 固形物(食事) | 術前6時間以上前まで |
| 牛乳・乳製品 | 術前6時間以上前まで |
| 清澄水・スポーツ飲料 | 術前2時間前まで |
| 喫煙・飲酒 | 術前から原則禁止 |
喫煙や飲酒は血圧を大きく変動させるリスクがあります。 術前日からの禁煙・禁酒を患者に明確に指示することが、術中バイタルの安定につながります。
帰宅基準については、術後に回復室でバイタルサインが安定していること、意識が清明であること、嘔気・嘔吐が落ち着いていること、歩行ができること、そして必ず付き添いの大人が同伴していることが求められます。 付き添いなしの単独帰宅は原則として認められません。 術後は当日の自動車・バイクの運転が禁止であることも、事前に書面で患者に伝えておくことが医療安全上の重要ポイントです。
関連)https://www.d-furuse.com/14835359119614
日帰り全身麻酔は「最後の手段」ではありません。 むしろ、歯科恐怖症や嘔吐反射が強い患者に対して、早期からの積極的な選択肢として検討すべき治療法です。
関連)https://ningyocho-dental.jp/blog/935/
重度の歯科恐怖症患者では、静脈内鎮静法(セデーション)で対応できないケースが一定数存在します。 CDAC(臨床歯科麻酔科医グループ)のサービスでは、歯科麻酔科医が在籍しない一般歯科医院でも歯科麻酔科医とのマッチングで全身麻酔導入が可能な仕組みが整備されており、これを活用することで自院での受け入れ範囲を広げることができます。 これは使えそうな選択肢です。
関連)https://www.dental-masui.com/anesthesia/
嘔吐反射(絞扼反射)が極めて強い患者は、通常の局所麻酔での印象採得やX線撮影すら困難なケースがあります。 日帰り全身麻酔を適用することで、こうした患者に対して多数歯の処置を1回の麻酔でまとめて行うことができ、患者の来院負担を大幅に軽減できます。
関連)https://www.nashikai.or.jp/cms/wp-content/themes/tmpl/img/upload/shika-chiryou5.pdf
また、知的障害や自閉スペクトラム症などの患者に対しては、東京都立心身障害者口腔保健センターのような専門施設への紹介連携も重要な選択肢です。 自院で対応が難しい場合は無理に引き受けず、適切な施設への紹介が患者の安全を守ることにつながります。
関連)http://www.tokyo-ohc.org/message/pdf/leaflet/005_systemguide03.pdf
参考:歯科麻酔科医とのマッチングや全身麻酔導入サービスについては以下を参照ください。