2003年に発売されたageのアドベンチャーゲーム「マブラヴ」シリーズ。その中でも特に高い評価を受けている「マブラヴ オルタネイティヴ」の主人公である白銀武は、多くのゲームファンの心を掴んできました。平和な学園生活から突如として異世界へと投げ込まれ、人類の存亡を賭けた戦いに身を投じる彼の姿は、20年以上経った今でも多くの人々に感動を与え続けています。
本記事では、白銀武という主人公の魅力と、彼が生きる「マブラヴ」の世界観について深掘りしていきます。ゲームをプレイしたことがある方も、これからプレイしようと考えている方も、白銀武の壮絶な旅路をより深く理解するための一助となれば幸いです。
「マブラヴ」シリーズは大きく分けて三部構成になっています。まず「EXTRA編」では、白陵柊学園の3年生である白銀武が、幼馴染の鑑純夏や転校生の御剣冥夜といった個性的なキャラクターたちと共に過ごす平和な学園生活が描かれます。この部分は王道の学園ラブコメとして展開され、一見すると後の壮絶な展開からは想像もつかない穏やかな日常が描かれています。
続く「UNLIMITED編」では、ある日突然、武が地球外起源種「BETA」によって蹂躙された並行世界へと転移してしまいます。そこは人類が絶滅の危機に瀕している世界で、武は戸惑いながらもこの世界で3年間を過ごし、最終的には戦死してしまいます。
そして「ALTERNATIVE編」では、死んだはずの武が再び目を覚ますと、並行世界へと移動した「あの日」である2001年10月22日に戻っていました。前回の経験と記憶を持ったまま、今度こそ人類を勝利へと導くべく、国連軍横浜基地の門を叩く決意をします。
この三部作の構成が「マブラヴ」の大きな特徴であり、特に「ALTERNATIVE編」は前作までの経験を踏まえた武の成長と覚悟が描かれ、多くのファンから最高傑作と評されています。しかし、その評価は「EXTRA編」と「UNLIMITED編」をプレイした上での話であり、武という人物にどれだけ感情移入できるかが物語の魅力を左右する重要な要素となっています。
「マブラヴ」世界における人類とBETAの戦いの最前線に立つのが、戦術歩行戦闘機(戦術機)と呼ばれる人型兵器です。白銀武も訓練を経て、この戦術機のパイロット「衛士」として戦場に立ちます。
戦術機は高い機動性と近接戦闘能力を持ち、通常の兵器では太刀打ちできないBETAに対抗するために開発された人類最後の切り札です。武が最初に乗る訓練用戦術機「吹雪」は、初心者用ながらもスピード感のある戦闘が可能な機体として描かれています。
BETAとの戦闘は非常に過酷で壮絶なものとして描かれます。意思疎通が不可能な異星生命体であるBETAは、様々な種類が存在し、それぞれが特殊な能力や特徴を持っています。人類はこれらのBETAと長きにわたり戦争を続けており、その戦いの中で多くの犠牲を払ってきました。
武もまた、この絶望的な戦いの中で何度も挫折と絶望を味わいますが、それでも立ち上がり続けます。特に「ALTERNATIVE編」では、前回の世界での経験と失敗を活かし、より効果的にBETAと戦うための戦略を模索する姿が描かれています。
戦術機とBETAの戦いのシーンは、ゲームの中でも特に印象的な部分であり、2021年に放送されたアニメ「マブラヴ オルタネイティヴ」でも、その迫力ある戦闘シーンが再現されています。
白銀武の最大の魅力は、絶望的な状況の中でも希望を見出し、成長し続ける姿にあります。特に「ALTERNATIVE編」では、一度は敗北を経験した武が、再びループした世界で戦いに挑む姿が描かれています。
武は訓練課程を終えて一人前の衛士になった後、模擬戦中に出現したBETAに敗北し、自信を打ち砕かれます。さらに、彼を支えてくれていた神宮司まりもがBETAの奇襲によって命を落とすという悲劇に見舞われ、戦う気力を失ってしまいます。
絶望の中、武は夕呼の力を借りて元の平和な世界に戻ることを選びますが、そこでも悲劇は続きます。この世界でも再会したまりもが事故で亡くなり、さらに周囲の人々が武のことを忘れていくという現象が起こります。自分だけは絶対に忘れないと約束してくれた純夏さえも記憶を失い、さらに事故に遭ってしまいます。
絶望の果てに自殺を考えるまで追い込まれた武ですが、夕呼の説明により、因果導体となった原因を取り除けば本当の意味で元の世界に戻れることを知ります。そして彼は自殺を思いとどまり、「どんなにループを繰り返そうと……どれだけ時間がかかろうと……必ず……必ずやります!」と、もう一度BETAの世界で戦うことを誓うのです。
この言葉には、絶望を知った者だからこそ持つ重みがあります。武の成長は、単に戦闘技術が向上したということだけではなく、精神的にも大きく成長し、人類の未来のために自分を犠牲にする覚悟を持つまでになったことを示しています。
2021年10月から放送されたテレビアニメ「マブラヴ オルタネイティヴ」では、白銀武役を神木孝一さんが演じました。これは以前のキャストからの変更となりましたが、その背景には「マブラヴ」を世界展開していく上での長期的な視点がありました。
「マブラヴ」総括プロデューサーのtororo氏によれば、これから10年、20年と世界展開を続けていくことを見据え、「新世代の『マブラヴ』キャスト」として、不滅のコンテンツとして続けられる方を選んだとのことです。また、原作者の吉宗鋼紀氏も、この時代にあったキャストを選んだと述べています。
神木孝一さんは、オーディションに臨むにあたって原作をプレイし、作品の世界観を理解した上で、吉宗氏とすり合わせを行いながら白銀武というキャラクターを作り上げていったそうです。
アニメ化によって、原作ゲームをプレイしたことがない新たなファン層にも「マブラヴ」の世界が広がりました。特に2021年10月22日は、作中で白銀武が並行世界に移動した日として特別な意味を持ち、アニメ放送に合わせて描き下ろしイラストが公開されるなど、ファンにとって記念すべき日となりました。
「マブラヵ」シリーズ、特に白銀武の物語が多くの人々の心に残る理由の一つは、それが単なるSF戦争物語ではなく、平和の大切さを深く考えさせる作品だからでしょう。
平和な世界と戦争の世界、両方を知る白銀武だからこそ、平和の尊さを痛感し、それを守るために命を懸ける覚悟ができるのです。彼の苦悩や葛藤、そして愛や友情といった感情に共感することで、私たち読者も平和について考えるきっかけを得ることができます。
また、どれほど絶望的な状況でも希望を見出し、諦めずに戦い続ける武の姿勢は、現実世界を生きる私たちにも勇気を与えてくれます。「どんなにループを繰り返そうと……どれだけ時間がかかろうと……必ず……必ずやります!」という彼の言葉は、困難に直面した時の心の支えになるかもしれません。
2003年の発売から20年以上経った今でも、「マブラヴ」が新たなファンを獲得し続けているのは、この作品が持つ普遍的なメッセージと、白銀武という魅力的な主人公の存在があるからこそでしょう。彼の物語は、単なるゲームの一キャラクターの枠を超え、多くの人々の心に深く刻まれ続けているのです。
「マブラヴ」の世界は、アニメや漫画、小説など様々なメディアに展開され、その世界観はさらに広がりを見せています。しかし、その中心にあるのは常に、平和な世界と戦争の世界を行き来しながら、人類の未来のために戦い続ける白銀武の姿なのです。
彼の物語は、私たちに平和の尊さを教えるとともに、どんな絶望的な状況でも希望を持ち続けることの大切さを伝えてくれます。それこそが、「マブラヴ」という作品、そして白銀武という主人公の最大の魅力なのかもしれません。